日本の学者100名の声
ユネスコの「世界の記憶」に8カ国が共同申請した「日本軍『慰安婦』の声」資料について、仮に登録小委員会(RSC)が2015年の「南京大虐殺」文書に続き、国際諮問委員会(IAC)に登録を勧告したのであれば、私たちは以下の通り、異論がある。従ってIACにおかれては、審査に及ぶことなく、関係者に対話の機会を提供するよう要請したい。何故なら「世界の記憶」事業は、加盟国間の友好と相互理解の促進を旨とするユネスコの下で実施されており、対立のもととなる事実には必ず対話の機会が提供されるべきだからである。
まず手続き上の問題点について指摘したい。
第一に、ユネスコは2015年、学術的批判があるにもかかわらず、IACがRSCの勧告を鵜呑みにして「南京大虐殺」文書の登録を強行した。登録された同文書は未だに公開されていないことは「世界の記憶」事業の根幹にかかわる由々しき事態である。今回の共同申請についても当事者である日本の学者・民間団体との協議を拒否している。
政治的濫用から「世界の記憶」事業を保護するのに必要な枠組みとして、疑義が呈された申請案件の扱いで合意が得られない場合、関係団体の対話を継続すること等を明記した制度改革の最終報告を踏まえて、共同申請された米国立公文書館(NARA)所蔵文書と同一の文書が含まれる「慰安婦と日本軍規律に関する記録」文書の登録をユネスコに申請した日本の保守系団体が、8月23日に共同申請側との協議を要請する公開状を発出したものの、公開状に対する誠意ある回答がない。
第二に、ユネスコ事務局は4月10日付けのメールで、「政治的案件」について登録小委員会の予備的勧告を申請者に伝達し、同案件の一つである日本の保守系申請団体に対しては、「歴史の審判や解釈を行うものではない」「申請書の文言が主観的」「特定のユネスコ加盟国に対する特定の主張が含まれる」「現在の日本政府の決定に影響を与えかねない」「所有者の同意取り付けが必要」と勧告したが、8カ国の共同申請にも同様の問題点があり、日本の申請団体のみに勧告し、共同申請側を不問に付すのは二重基準と言わざるを得ない。
次に、共同申請資料の内容の具体的問題点について指摘したい。
第一に、申請書の要旨の冒頭に明記されている「慰安婦とは日本軍によって性奴隷を強制された婦女子」という定義は不適切である。ベトナム戦争時の性暴力や朝鮮戦争時の韓国軍慰安婦などは不問に付し、「日本軍慰安婦」を特別視し、その徴募方法について具体的証拠を示さずに強制性を強調し、慰安婦と性奴隷を同一視していることは歴史的事実に反する。
米政府が7年の歳月と3千万ドルを費やして、CIA、FBIなどの省庁間作業部会が840万頁の機密資料を調査したが、慰安婦の強制連行や性奴隷化を裏付ける米政府・軍の文書は皆無であった。
第二に、8カ国の共同申請と日本の保守系申請団体の両者が登録申請したNARA所蔵文書には、共同申請が主張している「性奴隷」「強制性」「少女」ではないことを立証する史料が混在している。同文書によれば、慰安婦には報酬を得、それによって借金を返し、多額の貯金や送金を行った者もいた。所有権の対象である「奴隷」ではなかった。日本軍慰安婦は「性奴隷」というのは、多くの日本の学者や米韓の有力学者の見解に反するものである。
第三に、共同申請された英「帝国戦争博物館(IWM)」所蔵文書(30点)に含まれているマンダレー駐屯地慰安所規定は、慰安婦は「公娼」であったことを示しており、申請された写真や英軍兵士の証言も「世界の記憶」の登録選考基準である「真正性」の規定に反するものである。目撃した具体的日時・場所・人を示すべきオリジナルな第一次史料が不明であるが故に信憑性が薄い。同証言には朝鮮戦争時にオーストラリア軍によって運営されていた慰安施設を日本軍の慰安施設「芸者ハウス」としたり、朝鮮戦争時の仁川の売春宿や中国国民党占領地域の売春についての証言が混在している。いずれも「性奴隷を強制された」という共同申請の主張を立証するものではない。
第四に、共同申請が日本軍の慰安婦制度を「ホロコーストに匹敵する戦争悲劇」と主張しているのは、悪意に満ちた誹謗中傷である。この点に関して、カナダ・イスラエル友好協会は2016年10月16日、ユネスコに意見書を提出し、そのような表現は「ホロコースト」の意味を捻じ曲げていると訴え、「ユネスコは、設立当時の原則を踏みにじり、最も攻撃的な加盟国の政治課題や目的を他の加盟国に強要する道具になってしまった」と批判している。
第五に、日韓両政府の外交合意を否定する反政府運動団体が自らの活動資料を「世界の記憶」として共同申請している。また、元慰安婦の絵などの申請が指摘されているが、これらは「世界の記憶」にふさわしい資料ではない。「世界の記憶」の一般指針2.6.2において、「絵画や三次元人工物、美術品等といった再現不可能な『オリジナル』としてデザインされた品目それ自体は(記録遺産から)除外される」と規定しているからである。にもかかわらず、これらが登録されれば、無用な対立と混乱を惹起し、世界中の反政府団体の活動資料の申請が殺到する異常事態が起きかねない。
第六に、共同申請は慰安婦少女像の「平和のシンボル」としての世界的意義を強調しているが、実際には、日系子女へのいじめなどの地域社会における様々なコミュニティーの平穏な共生が妨げられる事例が生じ、「紛争のシンボル」と化している。
IACにおかれては、以上の論点の重要性をご理解いただき、共同申請については審査に入る前に、必ず関係者に対話の機会を提供するよう強く要請したい。
「世界の記憶」日本軍「慰安婦の声」共同申請登録に反対する日本の学者の会
2017年10月20日現在、呼びかけ人と賛同者合計103名
呼びかけ人
伊藤 隆 東京大学名誉教授
田中 英道 東北大学名誉教授
渡辺 利夫 前拓殖大学総長
高橋 史朗 明星大学特別教授
西岡 力 麗澤大学客員教授
賛同者
青柳 武彦 元国際大学教授
新井 耕一郎 愛知学院大学教授
荒木 和博 拓殖大学教授
有馬 哲夫 早稲田大学教授
池井 優 慶應義塾大学名誉教授
磯前 秀二 名城大学教授
市村 真一 京都大学名誉教授
伊藤 憲一 元青山学院大学教授
稲村 公望 元中央大学大学院客員教授
潮 匡人 東海大学講師
海上 知明 東京経済大学教授
馬田 啓一 杏林大学名誉教授
梅澤 昇平 元尚美学園大学教授
梅原 克彦 元国際教養大学教授
占部 賢志 中村学園大学教授
エドワーズ 博美 メリーランド大学講師
恵谷 治 元早稲田大学客員教授
呉 善花 拓殖大学教授
大岩 雄次郎 東京国際大学教授
大原 康男 國學院大學名誉教授
大森 弘 元八洲学園大学客員教授
緒方 哲也 東京国際大学専任講師
岡本 幸治 大阪国際大学名誉教授
小川 令 日本医科大学教授
長田 五郎 横浜市立大学名誉教授
長田 三男 元早稲田大学教授
小山 和伸 神奈川大学教授
貝塚 茂樹 武蔵野大学教授
勝岡 寛次 明星大学戦後教育史研究センター
加藤 秀治郎 東洋大学名誉教授
金岡 秀郎 国際教養大学特任教授
川久保 剛 麗澤大学准教授
北村 稔 立命館大学教授
キンモンス アール 大正大学名誉教授
久野 潤 名城大学講師
久保田 信之 学習院女子大学名誉教授
久保田るり子 國學院大學客員教授
黒田 耕成 広島大学名誉教授
慶野 義雄 平成国際大学名誉教授
小林 宏晨 日本大学名誉教授
小林 路義 鈴鹿国際大学名誉教授
小堀 桂一郎 東京大学名誉教授
古森 義久 麗澤大学特別教授
小山 常実 大月短期大学名誉教授
坂本 正弘 元中央大学教授
佐瀬 昌盛 防衛大学名誉教授
篠原 敏雄 国士舘大学教授
柴 公也 熊本学園大学教授
澁谷 司 拓殖大学教授
島田 洋一 福井県立大学教授
下條 正男 拓殖大学教授
杉原 誠四郎 元城西大学教授
須藤 鎮世 就実大学名誉教授
高木 桂蔵 静岡県立大学名誉教授
高原 朗子 熊本大学教授
高森 明勅 国学院大学講師
高山 正之 元帝京大学教授
田久保 忠衛 杏林大学名誉教授
竹田 恒泰 皇學館大學講師
竹本 忠雄 筑波大学名誉教授
崔 吉城 広島大学名誉教授
鄭 大均 首都大学東京名誉教授
土井 郁磨 亜細亜大学非常勤講師
富岡 幸一郎 関東学院大学教授
富田 庸 英ベルファースト・クイーンズ大学教授
豊島 典雄 元杏林大学教授
中田 雅敏 八洲学園大学教授
西 修 駒澤大学名誉教授
西尾 幹二 電機通信大学名誉教授
西村 幸祐 関東学院大学講師
新田 均 皇學館大学教授
長谷川 三千子 埼玉大学名誉教授
秦 郁彦 元日本大学教授
浜谷 英博 三重中京大学名誉教授
原田 博夫 専修大学経済学部教授
東中野 修道 亜細亜大学教授
樋口 隆一 明治学院大学名誉教授
平川祐弘 東京大学名誉教授
平間 洋一 元防衛大学教授
福井 雄三 東京国際大学教授
福田 逸 明治大学教授
福地 惇 高知大学名誉教授
藤井 厳喜 拓殖大学非常勤講師
藤岡 信勝 拓殖大学客員教授
古田 博司 筑波大学教授
ペマ ギャルポ 拓殖大学教授
松井 嘉和 大阪国際大学名誉教授
松浦 光修 皇學館大学教授
馬渕 睦夫 吉備国際大学客員教授
宮原 悟 名古屋女子大学教授
宮脇 淳子 元東京大学非常勤講師
百地 章 日本大学名誉教授
八木 秀次 麗澤大学教授
矢野 義昭 岐阜女子大学客員教授
山下 英次 大阪市立大学名誉教授
吉田 好克 宮崎大学教授
吉田 頼且 拓殖大学名誉教授
吉原 恒雄 元拓殖大学教授
協力:不当な日本批判を正す学者の会(AACGCJ)会長 田中英道 東北大学名誉教授
写真)2017年10月16日 日本記者クラブ