ソウル地方裁判所報道資料

2021年1月8日にソウル地方裁判所が下した判決に関する資料をここに掲載いたします。

                                        

ソウル中央地方法院(裁判所)2021.1.8宣告
2016カ合505092判決

 ソウル中央地方法院第34民事部(裁判長部長判事金ジョンゴン)は2021年1月8日、慰安婦被害者裵●●など合計12人が日本国を相手に提起した損害賠償請求訴訟で原告たちの請求をすべて認容し、被告日本国に原告たちに各1億ウォンずつ支払うことを命じる判決を宣告する。

■原告たちの請求要旨

 原告たちは日本帝国の侵略戦争中に組織的で計画的に運営された「慰安婦」制度の被害者たちであり、日本帝国は第2次世界大戦中、侵略戦争遂行のために組織的・計画的に「慰安婦」制度を備え運営し、「慰安婦」を動員する過程で植民地として占領中だった韓半島に居住する原告たちを誘拐したり拉致して韓半島の外に強制移動させ、原告たちを慰安所に監禁された状態で日常的暴力、拷問、性暴力にさらした。このような一連の行為(以下、「この事件の行為」と呼ぶ)は不法行為であることが明白で、これにより原告たちは深刻な被害を受けたので被告にその慰謝料の一部として各1億ウォンの支給を求める。

■判決要旨

カ.裁判権の有無(国家免除の適用可否)に対する判断:裁判権はある

 国家免除(または主権免除)は国内法が外国国家に対する訴訟に関する裁判権を持っていないという国際慣習法だ。19世紀後半から例外事由を認める相対的主権免除理論が台頭した。

 我が国最高裁判決によっても私法的行為に対しては裁判権の行使が外国の主権的活動に対する不当な干渉となる憂慮があるなどの特別な理由がない限り、外国の私法的行為に対しては当該国家を被告として我が国の裁判所が裁判権を行使することができる。しかし、この事件の行為は私法的行為でなく主権的行為だ。

 国際司法裁判所(ICJ)は2012年2月3日ドイツ対イタリア事件で「国家免除に関する国際慣習法は、武力衝突状況で国家の武装兵力および関連機関による個人の生命、健康、財産侵害に関する民事訴訟手続きにおいても適用される」という趣旨の判決を宣告したこともある。

 しかし、この事件の行為は日本帝国によって計画的、組織的に広範囲に強行された反人道的犯罪行為で国際的な強行規範に違反したものであり、当時日本帝国によって不法占領中であった韓半島内でわが国民である原告たちに対して強行されたものであるので、いかにこの事件の行為が国家の主権的行為であっても国家免除を適用することはできず、例外として大韓民国裁判所に被告に対する裁判権があると見る。

その根拠として

1)我が国憲法第27条第1項、国連「世界人権宣言」第8条でも裁判を受ける権利を宣明している。権利救済の実効性が保障されなければ、これは憲法上の裁判請求権を空虚にするものであり、裁判を受ける権利はほかの実体的基本権と合わせて充分に保護をされ保障されなければならない基本権だ。

2)国家免除は手続き的要件に関するものではあるが、手続き法が不充分であることによって実体法上の権利や秩序が形骸化したり歪曲されてはならない。

3)国家免除理論は恒久的で固定的な価値ではない、国際秩序の変動に従い継続的に修正されている。

4)1969年締結された条約法に関するジュネーブ協約第53条によれば、国際法規にも上位規範である「絶対規範」と下位規範の間で区別があり、下位規範は絶対規範を離脱してはならないとされており、このときの絶対規範の例として国連国際法委員会2001年「国際違法行為に対する国家責任協約草案」解説で列挙した奴隷制および奴隷労役などが挙げられる。

5)被告となった国家が、国際共同体の普遍的な価値を破壊し反人権的行為によって被害者たちにきわめて深刻な被害を加えた場合までも、最終的な手段として選択された民事訴訟で裁判権が免除されると解釈することは不合理で不当な結果をもたらす。すなわち、ある国家が他の国家の国民に対して人道に反する重犯罪を犯さないようにするいろいろな国際協約に違反しても、これを制裁できなくなり、それによって人権を蹂躙された被害者たちは憲法に保障された裁判を受ける権利を剥奪され、自身の権利をまともに救済され得ない結果を招来し、憲法を最上位規範とする法秩序全体の理念にも付合しない。「慰安婦」被害者たちは日本、米国などの裁判所で何回も民事訴訟を提起したがすべて棄却されたり、却下された。請求権協定と2015年「日韓軍慰安婦被害者問題に関連する合意」もまた被害を受けた個人に対する賠償を包括できなかった。交渉力、政治的な権力を持つことができない個人に過ぎない原告たちとしてはこの事件訴訟以外に具体的に損害を賠償される方法はほぼない。

6)国家免除理論は、主権国家を尊重しむやみに他国の裁判権に服従させないようにする意味を持っているのであって、絶対規範(国際強行規範)に違反して他国の個人に大きな損害を負わせた国家が国家免除理論の後ろに隠れて賠償と補償を回避できる機会を与えるために形成されたものではない。

ナ.国際裁判管轄権の有無に対する判断:管轄権はある

 不法行為の一部が韓半島内でなされ、原告たちが大韓民国国民として大韓民国に居住中である点、物的証拠の大部分が消失され、基礎証拠資料は大部分収集され、日本での現地証拠調査などは必ずしも必要ではない点、国際裁判管轄権は排他的なものではなく併存が可能である点などからしてみれば大韓民国がこの事件の当事者たちおよび紛争になっている事案と実質的関連性があるということにより、大韓民国裁判所はこの事件に対して国際裁判管轄権を持つ。

タ.損害賠償責任の発生

 日本帝国は侵略戦争遂行過程で軍人たちの士気高揚および不祥事発生の低減、効率的統率を追及するためにいわゆる「慰安婦」を管理する方法を考案しだし、これを制度化して法令を整備し軍と国家機関で組織的に計画を立てて人力を動員、確保し、歴史で前例を見つけられない「慰安所」を運営した。10代の初中盤から20歳あまりにしかならない未成年女性や成年に成り立ての原告たちは「慰安婦」として動員された後、日本帝国の組織的で直・間接的な統制の下で強制されて1日に数十回も日本軍人の性的行為の対象になった。原告たちは過酷な性行為による傷害、性病、望まない妊娠、安定性がまともに保障されない産婦人科の治療の危険を甘んじて受けなければならず、日常的な暴力にさらされ、まともな衣食住を保障されなかった。原告たちは最小限の自由も制圧され監視下で生活した。終戦以後も「慰安婦」だったという前歴は被害を受けた当事者に不名誉な記憶として残り、長らく大きな精神的な傷になり、そのため原告たちはその後に社会に適用することに困難を経験した。

 これは当時、日本帝国が批准した条約および国際法規に違反するだけでなく、第2次世界大戦後の東京裁判憲章で処罰を定めた「人道に反する犯罪」にあたる。

 したがって、この事件の行為は反人道的な不法行為にあたり、被告はこれによって原告たちが受けた精神的苦痛に対して賠償する義務がある。被告が支給しなければならない慰謝料は少なくとも原告たちに対して各1億ウォン以上だと見るのが妥当だ(しかし、原告たちが1人当たり各1億ウォンだけを部分請求として請求したので上記金額を超える部分については判断しない)。

ラ.損害賠償請求権の消滅可否に関する判断:消滅しない

 原告たちの損害賠償請求権は韓日両国間の1965年請求権協定や、2015年日本軍慰安婦被害者問題に関連する合意の適用対象に含まれていないので、請求権が消滅したとは言えない。

 

                        翻訳者:西岡 力