李容洙元慰安婦の告発から韓国情勢を見る

  写真:5月7日、韓国・大邱で記者会見を開き、支援団体を批判した元慰安婦の李容洙さん
  (写真:YONHAP NEWS/アフロ)JBpressより引用

 

皆様

 韓国では4月の総選挙にて文在寅大統領側の圧勝で幕を閉じましたが、一ヶ月も経たないうちに文大統領の反日政策の根幹を揺るがしかねない事件が起こりました。

 2020年5月7日、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏が、自身が住む地方都市の大邱(テグ)で記者会見を開き、挺対協(挺身隊問題対策協議会、現在、正義連と改称)に「寄付金をどこに使っているのか分かりません」「30年間だまされるだけだまされた」として、今後、日本大使館前の水曜集会に参加しない、挺対協の前代表で4月の選挙で与党の比例候補として国会議員に当選した尹美香(ユン・ミヒャン)氏は議員になるべきではないなどと語ったのです。

 

李容洙元慰安婦の発言内容を要約しますと、以下の4点になります。

①多額の寄付金を集めている挺対協がそれを被害者のために使っていない、挺対協など運動団体に利用され、だまされてきた。

②挺対協が1992年から毎週水曜日に続けている日本大使館前での反日集会も厳しく批判し、これからは参加しない。

③4月の総選挙で当選した尹美香前挺対協代表は議員になるべきでない。2005年12月末の日韓慰安婦合意締結の際、尹氏だけが韓国政府から日本が10億円出して基金を作るという合意の骨子を聞かされていながらそれを実際の被害者である自分たちに一切伝えなかった。

④挺対協が出した証言集では、自分はそこに書かれているように話していないのに、それを販売して金儲けしている。

 

※李容洙元慰安婦についての詳しい解説や寄付金の詳細は、西岡力本会会長が『WiLL』(2020年7月号)にて寄稿されております。是非、ご購読下さい。

 

証言内容の虚偽性を本人が指摘

 色々と興味深い点がありますが、李容洙氏の告発の中にあった、挺対協(当時)が1993年に出した証言集で自分の証言が歪められているという部分は特に重要と思われます。これまでの韓国側の主張を根底から覆すことを李氏は発言したのです。

 

  「1993年から本が出たでしょう、挺身隊対策協議会から。それを6500ウォンで
  販売していたのです。そこに出て
いる証言は間違っています。私はなぜ、そん
  な本を売るのかと言いました。」
(『WiLL』2020年7月号、p.323)

 

 以下、西岡会長の考察をご紹介いたします。

 李容洙氏が証言をたびたび変えていることはかなりよく知られています。1993年に挺対協が出した証言集では、近くに住んでいた友人に誘われて夜中に家出して日本人慰安婦業者のところに行って、赤い服と革靴をもらってうれしくなりその男について行ったと、語っていました。

 ところが、米議会での証言などでは日本軍人に強制連行されたと語っています。実は、日本でまず行われた李氏の証言の批判的検討は韓国にも伝達されています。メディアウォッチという勇気ある右派ネットメディアが2018年4月に、彼女の証言の変遷を詳しく調べた長文の論文「『従北』文在寅のための『嘘つきおばあさん』日本軍慰安婦李容洙」を発表していました。その中で、彼女の証言の変遷を詳しい表にしてわかりやすく示しています。

 

正義連の反論

 この他にも、「寄付金をどこに使っているのか分かりません」「学生・生徒らがご両親から少しずつもらっているおカネから寄付します。私はそれが一番心を痛めました」等と李氏は語りました。

 李氏の告発を受け、正義連(名称:日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)が11日、ソウルで記者会見を行いました。

 会見では李容洙氏の①(寄付金の使途)に関して、挺対協(当時)のお金を李氏は3回に渡り合計1350万ウォン受け取っているとして古びた領収書2枚と銀行振り込み書類などを公開しました。集まった寄付金は慰安婦支援以外にも国内外の運動資金や博物館などの建設維持費用にも使っているとしましたが、結果的に李氏の主張は正しかったことが判明しました。

 正義連帯の活動は挺対協当時から1992年から現在まで28年近く続いていますが、そのうち、1994年から2016年までの13年間と2018年、2019年の2年間の寄付は李容洙氏には1ウォンも渡っていなかったのです。(『WILL』2020年7月号、p.324)

 

明細の公開を拒否した正義連

 李容洙氏の告発を受け、主要マスコミが連日、正義連の会計の問題点を詳しく報じています。国税庁に提出された会計書類を見ると、おかしな支出があったことが、大きく報じられました。2018年ビヤホールを経営する会社に3340万ウォン(293万円)を払ったと記載されていたのですが、この年、国内で使った金額の合計は3億1067万ウォンであったことから、そのうち約1割をビヤホールに払ったことになります。

 これに関しては、その日、ビヤホールで支援者を集めた創立28周年行事をした、この金額は宅配やケータリングサービスなど他の業者への年間の支出の合計を書類上、ビヤホール会社に支出したように書いてしまったと正義連は弁明しています。

 しかし、その明細の公開を求める記者らに対して、自分たちにも人権がある、どの市民団体が会計を公開するかと言い放って、開き直りました。しかし、「寄付が免税となる財団の会計処理は法律で厳密に定められた基準があり、挺対協の書類はその基準を満たしていない」という指摘も出ています。これを受けて、国税庁が正式に書類の訂正を正義連に求めました。

 

異様な雰囲気となった5月13日の水曜集会

 この様な中でも、正義連は韓国慰安婦デモの水曜集会を5月13日に行いました。しかし、当日は異様な熱気に包まれていたと報道されています。

 以下、「文春オンライン」(2020年5月14日掲載)より引用いたします。

 

  5月13日水曜日、ソウル旧日本大使館前は異様な熱気に包まれていた。慰安婦問
  題で日本政府を糾弾するために行
われてきた水曜集会、だがこの日、厳しい声
  を浴びせられていたのは主催者である「挺対協(正義記憶連帯)」で
あり、韓
  国総選挙で議員当選した「前代表・尹美香(ユン・ミヒャン)氏」だった。

  韓国メディアでは彼女らの疑惑が次々と報じられ、“第2の曺国(前法務長官)
  事件”と呼ばれるようになっていた。

 

 この日、大使館前に太平洋戦争の被害者団体のメンバーがあつまり、「正義記憶連帯の李娜栄(イ・ナヨン)理事長に問う。誰が慰安婦問題の障害であり、妨害勢力なのか明らかにしなさい。慰安婦が水曜集会を止めろと言ったなら、止めなければならない。」 等と次々と声を上げたとことです。

 李娜栄理事長は「正義記憶連帯では個人的な資金横領や不法流用は絶対にない。現在、正義記憶連帯に向けて行われている一部メディアの悪意ある歪曲報道は、市民社会全般に対する弾圧です。この場で30年間余り続いてきたおばあさんたちと活動家たち、一緒にやって来た国内の市民の真摯な献身と連帯を傷つけないでください。そして韓国の歴史を守るために、私たちはもっと大きく連帯して屈せずに行動して行きます」と演説しました。

 しかしこの水曜集会には李容洙氏たちの元慰安婦は参加しておらず、理事長、事務総長、一部の関係者や市民が参加しただけという異様な様相を呈していました。

 

正義連の不正を追及する者は「親日派」という論理のすり替え

 5月7日の事件から1週間後、フェイスブックやツイッターなどに奇妙なスローガンが広がりました。SNS上では14日、与党系の支持者を中心に「正義連を攻撃する者は土着倭寇だ」「NO安倍」というフレーズが入っているイラストが拡散されたという報道が韓国で広がりました。(『朝鮮日報日本語版』2020年5月15日)

 正義連の寄付金使途内訳に対する疑問や調査要求そのものが「親日派の攻撃」だというのです。

 元慰安婦の李容洙氏を直接批判することが憚れたため、無関係な「親日派」を非難しているのだろうという声が上がっています。

 

次々と明るみに出る正義連の不正疑惑

 しかし、SNSで「正義連の不正を追及する者は『親日派』」というスローガンよりも正義連の不正疑惑報道の方がより広範に拡散されているようです。

 5月11日に『中央日報』から「慰安婦被害女性ら、日本からの支援金受け取ると『裏切り者』の烙印」、5月13日には同じく『中央日報』より「慰安婦被害者『私の血の代償なのに、韓国挺対協がなぜ日本のお金を受け取れないようにするのか』」という記事が出ています。

 これらの記事は、当時挺対協代表であった尹美香氏より日本からの慰労金を受け取らないように言われたことを紹介する内容です。

 その中には、「これまでおばあさんにお金をあげるといってお金を巻き上げていた。そうしておいて、おばあさんにお金を一銭も渡さなかった」と李容洙氏の告発と同じ話があります。(5月13日『中央日報日本語版』)

 

 5月15日には『朝鮮日報』が「尹美香氏の個人名義口座で慰安婦寄付金受け取り、公然と横領していたのか」という内容の社説を掲載しました。

 元慰安婦らのための寄付金を受け取る際、正義連名義ではなく伊氏の個人名義の口座で金を受け取っていたことが判明したと報じています。社説は「元慰安婦女性たちのための寄付金を何か自分のポケットの金のように取り扱っていたのだ。正義連は『法律が制定される前のこと』『法律をよく知らなかった』などと弁解しているが、到底信じられない」と厳しく批判しています。

 他にも、元慰安婦のための憩いの場として2013年に購入した京畿道安城市の施設がほとんど機能していないことが報じられています。元慰安婦の中には、その施設の存在すら知らなかった人もいました。さらに、そこの管理人は伊氏の父親が管理しており、2014年から売却(2020年)までの間「人件費」や「管理費」の名目で計7580万ウォンが支給されたことも指摘されました。

 

 こうした疑惑が明るみに出る中、2015年から2019年までの正義連が公開した資料を分析した会計士が現れました。その結果、寄付などで得た収益のうち、元慰安婦の福祉事業などに使われて残った金額は金融資産に記載した金額よりも2億6000万ウォン(約2300万円)多かったことが判明したとのことです。(『朝鮮日報日本語版』2020年5月19日)

 更に5月19日には元慰安婦が共同生活する施設「ナヌムの家」の職員7人が同施設への巨額の寄付金を被害者のために使っていないなどと告発する文書を出しました。

 

 5月25日には李容洙氏は2回目の会見を開きました。「日本は千年たとうと万年たとうと、慰安婦問題について謝罪すべき」と語る一方で、挺対協が女子挺身隊(軍需工場へ動員された女子たち)と慰安婦を混同してきたことに触れ、ここでも尹美香氏を強く批判しました。

 

 もはや正義連を擁護することは難しいでしょう。元慰安婦の人々を支援するためではなく、尹美香氏などの正義連の一部の人間が都合よく寄付金を利用していたと思われます。その中で、少女像を韓国の至る所に設置し、歴史の事実を捻じ曲げる国際活動にも寄付金が利用されたと見るべきです。

 韓国では今まさに、先進国家としての自浄作用が試されています。これを機に、一人でも多くの韓国人が慰安婦問題の真実に気が付いて欲しいと願っております。
                           (文責:長谷亮介)

 

※参考にした日本語版韓国新聞記事一覧

・『中央日報日本語版』2019年6月10日
「慰安婦問題、事実上放置…支援金、慰安婦など15人に行き渡らず」

 

・『中央日報日本語版』2020年5月11日
「慰安婦被害女性ら、日本からの支援金受け取ると『裏切り者』の烙印」

 

・『中央日報日本語版』2020年5月13日
「慰安婦被害者『私の血の代償なのに、韓国挺対協がなぜ日本のお金を受け取れないようにするのか』」

 

・『朝鮮日報日本語版』2020年5月15日
「【社説】尹美香の個人名義口座で慰安婦寄付金受け取り、公然と横領していたのか」

 

・『朝鮮日報日本語版』2020年5月15日
「親日規定する親文派たち『正義記憶連帯を攻撃したら土着倭寇』」

 

・『朝鮮日報日本語版』2020年5月16日
「挺対協、元慰安婦の憩いの場をペンションのように使っていた」

 

・『朝鮮日報日本語版』2020年5月18日
「慰安婦被害者『テレビを見て[憩いの場]のことを知り、悔しくて身震いがした』」

 

・『朝鮮日報日本語版』2020年5月19日
「挺対協でも毎年多額のカネが消えた…5年間で2億6000万ウォン『蒸発』」

 

・『広州聯合ニュース』2020年5月19日
「慰安婦被害者の共同生活施設も寄付金疑惑浮上 職員ら内部告発」

 

・『中央日報日本語版』2020年5月26日
「『なぜハルモニたちを売ったのか』…30年の恨がこもった李容洙さんの絶叫」