昨年11月に発行された、長谷亮介『朝鮮人「徴用工」問題 史料を読み解く』(草思社)を西岡力会長が書評されました。
以下、産経新聞1月19日の記事を転載いたします。
「強制連行」を覆す実証研究 『朝鮮人「徴用工」問題 史料を読み解く』長谷亮介著
<書評>評・西岡力(麗澤大特任教授)
『朝鮮人「徴用工」問題 史料を読み解く』長谷(ながたに)亮介著(草思社・3080円)
長谷亮介氏は一次史料を駆使して史実を明らかにする手堅い実証歴史学者だ。大学院で戦後の日本の歴史学がイデオロギーを優先させて史実をきちんと見ようとしないことを批判する修士論文、博士論文を書いた。その結果、博士号を取得したにもかかわらず、就職口がなくアルバイトで生活していた。
ある先生の紹介で私は長谷氏と出会い、私が会長をしている歴史認識問題研究会の研究員としてスカウトし、朝鮮人戦時労働者問題に取り組むことを提案した。
私は現代の韓国・北朝鮮地域研究が専門で歴史学者ではないが、平成12年頃からこの問題の研究に手をつけた。そこで、日本と韓国の学界、言論界を支配していた「強制連行」「強制労働」説が史実とかけ離れていることが分かった。公開されていた統計を足したり引いたりしてみた結果、戦時動員が行われた1939(昭和14)年から45年までの間に朝鮮から内地に渡航してきた朝鮮人は約240万人であり、そのうち戦時動員計画によって渡航したのは約25%の60万人しかいなかったことを発見して驚いた。
その経験から、歴史学を専門とする長谷氏が取り組めば歴史の真実に迫ることができると確信した。長谷氏はまず、当時作成された一次史料を精力的に収集し、それを深く分析して実証論文を次々に書いていった。その研究成果を集めたのが本書である。読みにくい学術論文が並んでいるのではなく、当時の写真や史料などもふんだんに収録して一般の読者に分かりやすいように編集されている。
圧巻は特高警察が毎月出していた『特高月報』のバックナンバーから朝鮮人労働者に関する記事を全て集めて分析した第3章、長谷氏が北海道博物館から見つけ出した日曹天塩炭鉱の朝鮮人労働者の賃金表を分析した第4章だ。
長谷氏は本書で「強制連行」「強制労働」説に立つ学者らを名指しで批判している。一次史料に基づく反論を期待したい。