柳錫春元教授の第1審無罪判決が下される

 2023年3月16日、歴史認識問題研究会訪韓団と懇談する柳錫春元教授(写真左から2番目)

 

 元慰安婦らへの名誉毀損罪などに問われていた柳錫春(リュ・ソクチュン)延世大学元教授の第1審無罪判決がソウル西部地裁にて本日下されました。

 同裁判では柳元教授による三つの発言が争点となりましたが、元慰安婦への名誉棄損をはじめとする二つが無罪となりました。韓国の学問の自由が辛うじて守られたことを歓迎し、その為に戦われた柳元教授に歴史認識問題研究会として強い連帯の意を伝えます。

 

 発端は2019年9月17日、柳元教授が講義の中で慰安婦問題に関する自身の意見を述べたことでした。講義を録音していた学生が外部と接触したことにより、「庶民民生対策委員会」と韓国挺身隊問題対策委員会(現、日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯=正義連)が柳元教授を刑事告訴し、韓国検察が2020年11月3日に名誉毀損罪で自宅起訴しました。

 

 検察は三つの点を「虚偽事実の摘示における名誉毀損罪」の疑いで起訴しました。

 

1、「日本軍慰安婦のおばあさんたちが売春に従事するため自発的に慰安婦になっ
  た」という趣旨で虚偽事実を発言して、慰安婦のおばあさんたちの名誉を毀損
  した。

2、「挺対協が、日本軍に強制動員されたと証言するように、慰安婦おばあさんたち
  を教育した」という趣旨で虚偽事実を発言して、挺対協の名誉を毀損した。

3、「挺対協の役員たちは統合進歩党の幹部であり、挺対協は北朝鮮と連携してい
  て、北朝鮮に追従している」という趣旨の虚偽事実を発言して、挺対協の名誉
  を毀損した。

 

柳元教授は次のように反論していました。

 

1に関して:「自発的に慰安婦になった」とは話していない。正確な表現は、慰安婦
      たちが「自意半、他意半」(貧困から抜け出すためにお金を稼がなくて
      はいけないという考え)で売春行為に入るようになった、である。

2に関して:挺対協が1990年代から2000年代初めまでにシリーズで出版した本、
      『強制連行された朝鮮人軍慰安婦たち』(1~5巻)に登場する慰安婦た
      ちの初期の証言と、慰安婦たちの最近の証言を比較すると明確に証明で
      きる。初期の出版物では、それぞれの慰安婦たちが「自意半、他意半」
      で慰安婦生活に入って行く過程を赤裸々に確認しているが、最近の慰安
      婦たちの証言は「強制動員」の方向に話しが変わっており、この証言の
      変化は、尹美香ら挺対協関係者が本などに書いている慰安婦「強制動
      員」の記述と一致する。このような変化の過程を「教育」と表現をし
      た。

3に関して:挺対協の「役員」が統進党幹部だと発言したのではなく、挺対協の「幹
      部」と統進党幹部が重なっているという趣旨の発言をした。これは方ヨ
      ンスン、崔ジンミ、孫ミヒなどのような人物の存在で裏付けられる事実
      である。

 

 起訴から約3年後、ソウル西部地裁は1と3に関しては無罪判決を下しましたが、2に関しては有罪とし、柳元教授に罰金200万ウォン(約22万円)を言い渡しました。

 今回の判決に対する柳錫春元教授が歴史認識問題研究会にコメントを寄せられました。また、西岡力当研究会会長もコメントを発表しました。

 

 柳錫春

まず、大学教授が慰安婦について講義で話したことについて学問の自由の範囲として無罪を宣告した判決を歓迎したい。次に、挺対協(挺身隊問題対策協議会)が慰安婦を教育したという部分について名誉毀損が認められたことは納得できないので控訴して戦う。第3に、この間、私を支援してくれた内外の同志に感謝する。特に、米国のラムザイヤー教授、日本の西岡教授、韓国のメデイアウォッチ黃意元代表、李宇衍博士らに感謝したい。

 

  西岡 力

慰安婦は売春の一種だという発言を大学の講義で行うことが刑事罰の対象になるなら、韓国には学問の自由がないと言わざるを得なかった。その意味で今回の判決で韓国の学問の自由がかろうじて守られたことを歓迎したい。先にあった朴裕河(パク・ユハ)教授の裁判では被告である朴教授が自分は慰安婦強制連行を否定していないとする立場を明らかにしていた。一方、柳教授は強制連行、性奴隷説を完全に否定する立場から裁判を戦われた。その意味で、柳教授の闘いこそが慰安婦問題における韓国の学問の自由を守る最先端に位置するものだった。控訴審以降も柳教授の戦いは続くが、心からの連帯の意を表明したい。

 

 

(産経新聞の関連記事)
「慰安婦は売春」発言に無罪、韓国元教授名誉棄損裁判 別の発言で一部有罪

 

(西岡会長の本裁判に関する解説)
「韓国における学問の自由の危機について」(『歴史認識問題研究』第10号)