韓国政府の朝鮮人戦時労働問題解決案に対する歴史認識問題研究会声明
2018年10月に韓国最高裁判所が、我が国企業に対して戦時中に雇用した元朝鮮人労働者への賠償金の支払いを命じる不当判決(以下「2018年判決」と称する)を下した。この異常事態を文在寅政権が放置したことが日韓関係を根底から揺さぶっている。尹錫悦政権は日韓関係の改善を公約に掲げ問題解決のため様々な努力をしてきた。1月12日に、政府傘下の財団が原告らに裁判で命じられた金額を肩代わりして支払うという案を公表した。韓国政府の責任で解決せよと求めてきた我が国政府の立場が受け入れられたものとして評価したい。しかし、韓国政府は我が国に対して「呼応措置」、即ち我が国からの財団への出資と謝罪を求めている。ここで我が国政府と当該企業が対応を誤ると大きな禍根を残す。
「2018年判決」は国際法違反であるだけでなく、我が国最高裁判決を否定するものだ。当該企業はすでに日本での裁判で勝訴している。ところが「2018年判決」は日本の統治は不法で賠償請求権は残っていると断言し、「日本判決が日本の朝鮮半島と朝鮮人に対する植民地支配が合法的であるという規範意識を前提に(しているので)大韓民国の善良な風俗や、その他の社会秩序に違反する(から)効力を承認できない」とした。日韓の法秩序が正面から衝突している。その中で、日本は韓国の法秩序を認める行動を取ってはならない。
韓国政府は1965年の国交正常化のとき、併合条約は「当初から無効」という立場を表明したが、それにともなう賠償は求めなかった。その立場は2018年判決まで維持されていた。
我が国政府は当然のことながら、日本の統治は合法だったという立場を堅持してきた。村山富市首相も菅直人首相もその一線は守っていた。一方、80年代以降、道義的な謝罪と人道的立場からの支援を繰り返し行った。ところがそれは逆効果を生み、謝罪したのになぜ法的責任を認めないのかという反発が起き続けた。
1月12日、韓国政府主催の討論会で、韓国外務省局長は「この間、日本内閣が何度も過去に対する謝罪と反省を表明してきたにもかかわらず何度も反覆されたので、韓国国民がそれを信頼できず真の和解に至っていない」とこれまでの我が国の対応を公然と批判した。
歴史認識問題研究会は、以下の原則を我が国政府と企業が守ることを強く求める。
第1に財団への出資について、当該日本企業がそれを行うと債務を認めることになるため断固反対する。韓国民法によると肩代わり支払いのためには、当該日本企業が韓国の財団と契約を結ぶ必要がある。安易に契約を結ぶと、韓国最高裁の不当判決によって課された債務を認めることになると注意を喚起する。
第2に謝罪について、当該企業は合法的な雇用を行っただけだから道義的観点からでも謝ってはならない。我が国政府が外交的観点から過去の道義的謝罪を再確認するのならば、同時に我が国の統治は合法的なものだったという、これまで厳守してきた法的立場もともに表明すべきだ。それをしないと、また「反覆した」と非難され、禍根を残す。
令和5年1月27日
歴史認識問題研究会 会長 西岡力
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