皆様
12月13日の産経新聞にて当研究会の西岡会長のコラムが掲載されました。
本HPにてご紹介いたします。
大きく揺らぐ韓国の学問の自由
モラロジー道徳教育財団教授・麗澤大学客員教授 西岡力
慰安婦問題の大学講義で
大学の講義で慰安婦についての自身の学問的見解を述べ、名誉毀損(きそん)罪に問われた延世大学の柳錫春(リュ・ソクチュン)・元教授(以下、柳教授)に、韓国の検察は懲役1年6月を求刑した。来年1月11日に判決が下されるという。韓国の学問の自由は大きく揺らいでいる。
ソウル西部地裁の求刑公判は11月23日に行われ、検察は「学問の自由は保護されなければならないが、他人の人格を侵害することはできない」とし、「歪曲(わいきょく)された事実を発言し被害者に大きな苦痛を与えた」と断じた。
柳教授は最終陳述で無罪を主張し、「大学で教授が討論して発言した内容をもって懲役刑で処罰しなければならないという検察の求めを聞きながら、大韓民国がまだ中世ヨーロッパのような荒唐無稽な国家なのかという気がした」と述べた。
問題の発端は2019年9月、韓国の名門私大である延世大学社会学科の「発展社会学」の講義で著名な社会学者である柳教授が、例年通り「韓国の発展において日本帝国主義植民地時期の役割についてどのように評価するか」という主題で受講生と討論を行った。その内容が勝手に録音され外部マスコミに持ち込まれ柳教授は激しい非難を浴びた。柳教授は学内で停職1カ月の懲戒処分を受けた。
騒ぎはそれで終わらず、外部の韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(当時)などが柳教授を刑事告訴した。驚くべきことに検察は20年11月、柳教授を名誉毀損罪で起訴し、刑事裁判が進んでいる。
なぜ刑事責任を問われたか
柳教授は一体どのような発言で刑事責任を問われているのか。それは次の3点だ。
1、「日本軍慰安婦のおばあさんたちは売春に従事するため自発的に慰安婦になっ
た」という趣旨で虚偽事実を発言して、彼女たちの名誉を毀損した。
2、「挺対協が、日本軍に強制動員されたと証言するように、慰安婦おばあさんた
ちを教育した」という趣旨で虚偽事実を発言して挺対協の名誉を毀損した。
3、「挺対協の役員たちは統合進歩党の幹部であり、挺対協は北朝鮮と連携してい
て、北朝鮮に追従している」という趣旨の虚偽事実を発言して、挺対協の名誉
を毀損した。
この3つの点について、柳教授は具体的に反論しているが、ここでは1への反論を紹介する(2と3の反論は拙著『韓国の大統領はなぜ逮捕されるのか』参照)。
柳教授は講義中、「自発的に慰安婦になった」とは話していない。正確な表現は「生活が苦しいからであって、自分が望んだからではありません」「自意半、他意半で売春行為に入るようになった」である。これは受講生の誰かが承諾なしに録音し外部に公開したテープの記録にも残っている。
柳教授は「自意半、他意半」という用語を、貧乏という構造的条件に特定の個人が反応して慰安婦になるという状況を説明しようとして使った、と主張している。貧困から抜け出すためお金を稼がなくてはいけないと考える過程に民間の就職詐欺師が介入した状況について、「自意半、他意半」という表現をしたというのだ。
柳教授は、講義の中で売春に従事することになる慰安婦の選択が100%自発的だ、という趣旨の発言をしていない。
柳教授は「自意半、他意半」という問題は、今日の売春にも同じように現れている問題だと指摘する。現在の性産業に従事している女性たちも、過去の慰安婦と同じく「経済的見返りを得るために職業として売春に従事することを自発的に選択した」とみることはできないからだと教授は主張する。
学問的研究を根こそぎ否定
柳教授は、もし「自意半、他意半」という発言が虚偽発言であるなら、売春に関する学術的研究成果を根こそぎ否定する結果をもたらすだけだと強調する。また自分の発言は過去に存在した、そして今日にも存在する売春の属性を比較研究する必要があることを強調した、講義室での学術的な発言に過ぎないと主張する。
ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦像の撤去を求める保守系市民団体から像を守ろうとして、像の周囲に座り込んだ学生ら=2020年6月(名村隆寛撮影)
日本でもベストセラーになった『反日種族主義』の著者である李栄薫(イヨンフン)氏らも慰安婦への名誉毀損で刑事告発され、現在も警察の取り調べが続いている。毎週水曜、ソウルの日本大使館前の慰安婦像の横で、像の撤去を求めるデモを3年間続けている李宇衍(イウヨン)氏、金柄憲(キム・ビョンホン)氏らも刑事告発されている。
柳教授が有罪判決を受けるならそれらの真実を叫ぶ方たちが次々収監される事態さえ起きかねない。また大学講義や学術書・論文などで慰安婦問題を学問的に取り上げることが不可能になりかねない。日本をはじめとする関係国での議論に対しても、刑事訴追が起きる可能性すら排除できない。
私を含む、日本、米国、韓国の学者は昨年8月に「柳錫春元延世大学社会学科教授に対する起訴を憂慮する日韓米学者共同声明」を発表した。来年1月の判決で韓国司法が学問の自由を守るのかを注目したい。