萩生田文部科学大臣会見(令和3年10月1日)15:35より自由社教科書に関する問答
歴史認識問題研究会は『歴史認識問題研究』第7号に、勝岡寛次氏の論文「自由社教科書不合格問題の背景と欠陥箇所の『二重申請』問題」を掲載いたしました。勝岡論文の要諦は、不合格の判断の決め手になった「前回と同じ誤りを指摘されているケースが約40件あった」という文科省の言い分は正しかった、という点にありました。
勝岡氏は文科省とは独自に調査した結果、つくる会が前回(平成26年)の検定で指摘された誤り(39件)を、令和元年の検定にも未修正のまま提出したことが不合格に繋がったことを、動かぬ証拠(自由社による、欠陥箇所の「二重申請」案件・一覧)を以て立証しました。39件のうち14件は自由社も誤りを認めており、市販本では「自主修正」していたことも明らかになっています。前回の検定で「対馬」を「対島」と間違えて表記した箇所について、今回の検定でも同じ間違いを犯して検定意見が付いていることなどから判断すれば、つくる会側の教科書編集の杜撰さこそ、不合格の原因になったと考えた勝岡氏の論考は、公平かつ公正な指摘であったと言わざるを得ません。
去る10月1日に行われた萩生田前文科相の記者会見での答弁を見ても、「40か所程度につきましては、平成26年度に検定意見を踏まえて一度修正したものを…、また元通りに戻して、そして提出をしていました。…私には、ちょっと理解できませんでした」「子供たちの学ぶ教科書に誤記・誤植はあってはならないと思います。…これらの欠陥がないよう発行者として万全を尽くしていれば、例えばいわゆる一発不合格というものは十分避けられたわけですから」云々とあり、勝岡論文の考察が正しかったことが、改めて明らかとなりましたので、以下、記者会見の内容を紹介いたします。
また、自由社は9月21日に、文科省から「不正検定」を受けたことを理由として国家賠償請求訴訟を起こしましたが、本件に対する荻生田前文相の記者会見における答弁も、併せて掲載しております。
2021年9月21日
記者)
自由社が教科書検定について国家賠償請求訴訟を本日の午前中に(訴状を)提
出したと聞きました。裁判所の記者クラブで会見していますが、これについて大
臣から何かコメントはありますか?
大臣)
ちょっと事実関係を承知してないのでコメントは控えたいと思うのですけれど
、就任以来、このことについては、事業者が直接ということはありませんでした
けれど、関係者の皆さんからいろんな申し出がございました。私としては、適切
な対応をしてきたつもりでございますし、また、その中で、確かに言われてみれ
ば、検定の尺度としてですね、もう少し柔軟でもいいんじゃないかなということ
も、ちゃんと省内でも整理をしたつもりでございますので、それをもって国家賠
償と言うと、ちょっと大げさな話かなという気もしますし、現職の文科大臣です
から、いろいろ配慮して申し上げていないこともありますけれど、やっぱり教科
書検定ってルールに則ってやるべきだというふうに思っておりまして。果たして
、訴訟を起こすだけのですね、一点の曇りもない対応だったのかということは、
関係者の皆さんにもよく確認をした方がいいんじゃないかという思いもございま
す。
2021年10月1日
記者)
教科書検定の関連で質問します。先日の会見でも少し出ましたが、教科書会社
の自由社が、国などを相手取り損害賠償請求訴訟を起こしました。被告には、国
のほか教科書調査官も含まれているようですが、こうした点を含めて、大臣の受
け止めと今後の対応についてお聞かせください。
大臣)
自由社が、国及び教科書調査官等に対して、令和元年度の検定審査不合格決定
に関する損害賠償請求訴訟を提訴したと報道などを通じて承知していまして、ま
だ、訴状は、私は見ておりません。不合格決定や教科書調査官らが職務行為とし
て行った検定業務は、検定基準等に基づく適法・正当なものであるにも関わらず
、本訴訟は、教科書調査官ら個人も被告として、欠陥箇所の意図的な水増しなど
個人の行為の悪質性を殊更に強調している点は誠に遺憾だと思っています。教科
書検定は、審議会で学術的・専門的な観点から審査され、行政的・政治的な意図
が入り込む余地はなく、さらに専門性が多岐に及ぶ社会科などの教科では、複数
の調査官による調査や多数の審議会委員による厳正な審査が行われるなど、恣意
性を排除する制度になっております。また、自由社は、他社の教科書では認めら
れている記述と同じ記述が欠陥箇所とされた旨を主張していますが、他社の記述
は自由社のものとは文脈が異なっているため、欠陥と評価されなかったものであ
ります。なお、不合格の根拠となった405件の欠陥箇所のうち、例えば40か所程度
につきましては、平成26年度に検定意見を踏まえて一度修正したものをですね、
また元通りに戻して、そして提出をしていました。その後世の中で変化があって
事実関係が変わればもちろん訂正しても構わないのですけれど、平成26年に指摘
をした検定意見の中身については決定的に変わる記述がないわけですから、そこ
をわざわざ、26年に検定意見を付けられた文言に変えるというのは、私には、ち
ょっと理解できませんでした。また、29か所の誤記・誤植がございました。一部
報道などで、記者会見ですか、説明で、誤記・誤植ぐらいみたいなことをおっし
ゃった方がいらっしゃったのですけれど、子供たちの学ぶ教科書に誤記・誤植は
あってはならないと思います。それを、検定をする、申請する段階で、やっぱり
これ、皆さん目を皿にして見られていると思いますので、そういった意味で、こ
れらの欠陥がないよう発行者として万全を尽くしていれば、例えばいわゆる一発
不合格というものは十分避けられたわけですから。合格検定を受けた同社はです
ね、検定結果の公表前に記者会見を行って、情報管理に係る規定に違反する事態
を引き起こしておりました。本件訴訟は、このような対応をしてきた同社が検定
の違法性を主張しているものですが、合理性に乏しい論評に基づく断定がなされ
た点は、ちょっと残念だと思っています。現段階では訴状を受け取っておりませ
んので内容を確認できませんが、内容を確認次第、適切な対応をしてまいりたい
と思っています。
自由社は訴訟において、国は同じ記述内容でも自由社の教科書のみ検定意見を付け、他社の教科書では付けていないと主張していますが、萩生田大臣は「他社の記述は自由社のものとは文脈が異なっているため、欠陥と評価されなかった」と述べています。裁判ではこの点が論争になりそうです。