「慰安婦に関する米学者声明への日本の学者からの返答 事実に基づいた建設的な対話を求めて 2015年(平成27年)8月6日」

皆様

 現在、アメリカのラムザイヤー教授の慰安婦論文を巡って大きな騒動が巻き起こっております。日本では既に「慰安婦は性奴隷ではなかった」という主張が学術的に証明されつつあります。しかし、アメリカを始めとした海外では、未だに慰安婦性奴隷説が支持されており、これに異論を挟むことが難しい状況にあります。201555日、アメリカの日本研究者ら187名が慰安婦問題について「日本の歴史家を支持する声明」を出したことがあります。その後、西岡会長や高橋副会長を含めた日本の学者たちがアメリカの声明に応え、「返答声明」を発しました。アメリカ国内の慰安婦問題に関する事実誤認が存在することなどを指摘しています。以下、日本語版「返答声明」を記載します。

 

    慰安婦に関する米学者声明への日本の学者からの返答
       事実に基づいた建設的な対話を求めて

                                        2015年(平成27年)8月6日

 2015年5月5日、米国の日本研究者ら187名が慰安婦問題について「日本の歴史家を支持する声明」(以下、米学者声明)を出しました。その後、賛同者は460人程度に増えたといわれています。私たち日本の学者は、米学者声明の呼びかけに応え、以下の通り見解を表明します。

 1、「慎重に天秤にかける」「歴史的文脈での評価」で完全に一致

 私たちは、米学者声明の中に書かれている次の文言に着目しました。
 

【・・・過去の全ての痕跡を慎重に天秤に掛けて、歴史的文脈の中でそれに評価を下すことのみが、公正な歴史を生むと信じています。この種の作業は、民族やジェンダーによる偏見に染められてはならず、政府による操作や検閲、そして個人的脅迫からも自由でなければなりません。】

 この指摘には私たちも同感であり、歴史研究における基本的で重要な原則であると考えます。この認識において、日米の研究者が意見の一致を見たことは素晴らしいことです。
 私たちが応答を試みようとしたのも、この声明が、従来、米国で行われてきた慰安婦問題に関する議論に比べると、事実関係に向き合おうという建設的な姿勢がそこに見出せると感じたからです。
 

 2、日本の歴史家とは誰なのか?

 以上のような基本的な一致にもかかわらず、米学者声明には、よくわからないところ、強い疑問を感じざるを得ないところがあります。米学者声明には「日本の歴史家を支持する声明」という題がつけられ、次のように書かれています。

【下記に署名した日本研究者は、日本の多くの勇気ある歴史家が、アジアでの第二次世界大戦に対する正確で公正な歴史を求めていることに対し、心からの賛意を表明するものであります。】

 ここでいう「日本の歴史家」とは誰なのか、明確ではありません。日本は学問の自由が保証されていますので、様々な立場の学者・研究者が存在します。声明を取りまとめた米国人学者の説明によると、日本の歴史学研究会が2014年12月に出した声明に影響を受けたとのことです。歴研声明は「慰安婦強制連行は事実であり、慰安婦は性奴隷だった」と主張しました。その主張と、「慰安婦強制連行」という言葉も、「性奴隷」という言葉もない、今回の米学者声明の内容はほとんど一致していないように見えます。その上、歴研は、日米安保条約に反対してきたマルクス主義系の組織です。
(2013年4月1日声明http://rekiken.jp/appeals/appeal20130401.html
 そのことを署名した米学者の皆さんはご存じだったのでしょうか。
 

 3、歴史を政治利用すべきではない

 米学者声明は、日本の「慰安婦」制度の問題が歴史解釈上で「最も深刻な問題のひとつ」であると位置づけ、次のように書きました。
 

【 戦後日本が守ってきた民主主義、自衛隊への文民統制、警察権の節度ある運用と、政治的な寛容さは、日本が科学に貢献し他国に寛大な援助を行ってきたことと合わせ、全てが世界の祝福に値するものです。しかし、これらの成果が世界から祝福を受けるにあたっては、障害となるものがあることを認めざるをえません。それは歴史解釈の問題であります。その中でも、争いごとの原因となっている最も深刻な問題のひとつに、いわゆる「慰安婦」制度の問題があります。この問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました。】
 

 私たちは米学者の皆さんに「日本に対して、歴史解釈の一致を求めているのですか」と問いたいです。事実関係を超えた歴史解釈は国や民族が違えば一致できません。それは、米国の日本への原爆投下に対する日米両国の歴史解釈を考えれば自明です。米学者声明が、韓国と中国の民族主義的暴言の問題点をも指摘したことは、肯定的に評価できます。私たちもどの国のものであろうと事実に基づかない民族主義的な暴言には反対します。
 その観点から、私たちは米国内にも慰安婦問題に関する事実誤認が存在することを指摘せざるを得ません。米学者声明は慰安婦の数について「永久に正確な数字が確定されることはないでしょう」と書きました。この立場に立つならすぐに歴史教科書の記述を修正すべきです。歴史教科書や、米国各地に建つ慰安婦像の傍らの碑には「日本軍が強制的に20万人の一般女性を拉致した」と具体的に書いてあるのです。また、国連報告書や米国下院決議121号には、拉致した上に、四肢切断し、証拠隠滅の為に殺害したとまで書いてあります。私たちは、このような、著しく事実に反する記述の訂正を求めているだけです。
 事実を事実として究明するのが私たち学者の使命だと信じております。学問の領域を逸脱し、この問題を政治問題化することによって、今日直面する諸問題に対処するための対話と協力を妨げることがあってはなりません。
 

 4、20世紀の戦時性暴力・軍売春の中で日本が特筆される根拠はない

 米学者声明は、日本の軍慰安婦制度を「特筆すべきもの」とする結論を、次のように書いています。

【20世紀に繰り広げられた数々の戦時における性的暴力と軍隊にまつわる売春のなかでも、「慰安婦」制度はその規模の大きさと、軍隊による組織的な管理が行われたという点において、そして日本の植民地と占領地から、貧しく弱い立場にいた若い女性を搾取したという点において、特筆すべきものであります。】

 米学者らが慰安婦制度を軍隊にまつわる売春とみているのであれば、私たちの認識と変わりません。日本軍は戦場でレイプ事件など性的暴力を防ぎ、性病の蔓延を防ぐため、自国と当時の自国領であった朝鮮などから業者が慰安婦を連れてくることを許可し、便宜を与えました。満州やドイツなどで敗戦国民の婦女子をレイプすることを許したソ連軍、占領下の日本政府が用意した日本人女性を売春婦として利用した米軍、同盟国米軍のために自国民の女性を売春婦として働かせた韓国に比べてどこが特筆すべきか議論されるべきでしょう。
 敗戦国女性のレイプは論外ですが、上記の米国や韓国のケースは「貧しく弱い立場にいた若い女性を搾取したという点において、共通する普遍的な問題」であったと私たちは考えます。当時の日本と朝鮮では貧困の結果、親が女衒に借金をし、その返済のために娘が売春をさせられるということがありました。そのような悲劇は現在では違法とされています。しかし、世界の見渡すとそのような悲劇は未だに多数存在します。北朝鮮から中国に逃げた脱北者などをはじめとして、貧困や飢餓の結果である、人身取引が大々的に行われています。国連報告書にあるように、北朝鮮国内では政治犯収容所などで女性に対するすさまじい性的迫害が存在します。現在も女性の人権が犯されているのです。
 私たちはそのようなことがこの地上から1日でも早く無くなるように努力すべきだと考えています。
 そのためには、女性の人権侵害という観点から、過去から現在に至るまで、全ての事実を俎上に載せて学術的に検証すべきであり、民族主義や政治的目的によって事実が歪められることを許してはなりません。

 

<呼びかけ人>
 渡辺 利夫(代表)拓殖大学総長
 中西 輝政    京都大学名誉教授
 田久保 忠衛   杏林大学名誉教授

<署名人>
 麻田 貞雄  同志社大学名誉教授
 浅野 和生  平成国際大学教授
 新井 弘一  元杏林大学教授
 荒木 和博  拓殖大学教授
 安藤 豊   北海道教育大学名誉教授
 安保 克也  大阪国際大学准教授
 石井 望   長崎純心大學准教授
 石垣 貴千代 元東洋大学教授
 井尻 秀憲  東京外国語大学名誉教授
 磯前 秀二  名城大学教授
 市村 真一  京都大学名誉教授
 伊藤 憲一  元青山学院大学教授
 伊藤 隆   東京大学名誉教授
 稲村 公望  中央大学客員教授
 井上 雅夫  同志社大学教授
 今岡 日出紀 島根県立大学名誉教授
 入江 隆則  明治大学名誉教授
 潮 匡人   拓殖大学客員教授
 梅澤 昇平  元尚美学園大学教授
 梅原 克彦  国際教養大学教授
 占部 賢志  中村学園大学教授
 江藤 裕之  東北大学教授
エドワーズ 博美 メリーランド大学講師
 呉 善花   拓殖大学教授
 大岩 裕次郎 東京国際大学教授
 太田 辰幸  東洋大学研究所研究員
 大原 康男  國學院大學名誉教授
 岡田-コリンズ マリ子 セントラルワシントン大学講師
 岡本 幸治  大阪国際大学名誉教授
 長田 五郎  明星大学名誉教授
 長田 三男  早稲田大学名誉教授
 小山 和伸  神奈川大学教授
 勝岡 寛次  明星大学研究センター
加藤 十八   中京女子大学名誉教授
 金岡 秀郎  国際教養大学特任教授
 兼子 良夫  神奈川大学教授
 北村 稔   立命館大学教授
 北村 良和  愛知教育大学名誉教授
 木村 汎   北海道大学名誉教授
 日下 公人  多摩大学名誉教授
 久野 潤   大阪国際大学講師
 慶野 義雄  平成国際大学教授
 小泉 俊雄  千葉工業大学教授
 小堀 桂一郎 東京大学名誉教授
 小山 一乗  元関東短期大学教授
 小山 常実  大月短期大学名誉教授
 酒井 信彦  元東京大学教授
 佐瀬 昌盛  防衛大学名誉教授
 柴 公也   熊本学園大学教授
 柴田 徳文  国士舘大学教授
 澁谷 司   拓殖大学教授
 島田 洋一  福井県立大学教授
 下條 正男  拓殖大学教授
 杉原 誠四郎 元城西大学教授
 高井 普   防衛研究所研究員
 高田 純   札幌医科大学教授
 高橋 史朗  明星大学教授
 高原 朗子  熊本大学教授
 高山 正之  元帝京大学教授
 田中 英道  東北大学名誉教授
 崔 吉城   広島大学名誉教授
 土田 龍太郎 東京大学名誉教授
 鄭 大均   首都大学東京名誉教授
 徳松 信夫  元常葉大学教授
 冨岡 幸一郎 関東学院大学教授
 豊島 典雄  杏林大学教授
 豊田 有恒  島根県立大学名誉教授
 中村 勝範  慶應大学名誉教授
 中屋 紀子  宮城教育大学名誉教授
 名越 健郎  拓殖大学教授
 西 修      駒澤大学名誉教授
 西尾 幹二  電機通信大学名誉教授
 西岡 力   東京基督大学教授
 西館 数芽  岩手大学教授
 新田 均   皇學館大学教授
 丹羽 春喜  大阪学院大学名誉教授
 丹羽 文生  拓殖大学准教授
 野田 裕久  愛媛大学教授
 袴田 茂樹  新潟県立大学教授
 長谷川 公一 元江戸川大学教授
 長谷山 崇彦 中央大学名誉教授
 秦 郁彦   元日本大学教授
 浜谷 英博  三重中京大学名誉教授
 樋泉 克夫  愛知大学教授
 東中野 修道 亜細亜大学教授
 樋口 恒晴  常磐大学教授
 平間 洋一  元防衛大学教授
 福井 雄三  東京国際大学教授
 福田 逸   明治大学教授
 福地 惇   高知大学名誉教授
 藤井 厳喜  拓殖大学客員教授
 藤岡 信勝  拓殖大学客員教授
 古田 博司  筑波大学名誉教授
 松浦 光修  皇學館大学教授
 馬渕 睦夫  元防衛大学校教授
 水渡 英昭  東北大学名誉教授
 村田 昇   滋賀大学名誉教授
 目良 浩一  元南カリフォルニア大学教授
 百地 章   日本大学教授
 八木 秀次  麗澤大学教授
 山下 英次  大阪市立大学名誉教授
 山藤 和男  電気通信大学名誉教授
 山本 茂   元九州女子大学教授
 吉田 好克  宮崎大学教授
 吉永 潤   神戸大学準教授
 吉原 恒雄  元拓殖大学教授
 渡部 昇一  上智大学名誉教授

 (以上、呼びかけ人を含め110人)