日本の市民団体が公開した資料は「強制徴用の証拠」か?(三菱重工業の社報について)

 2019年09月24日付けの『中央日報』(中央日報日本語版)にて、「強制徴用被害者を支援する日本の市民団体、三菱徴用の証拠を公開」という記事が公開されました。

 朝鮮人強制徴用の証拠として挙げられた資料は、1945年8月の三菱重工業の社報です。「名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会」の高橋信共同代表が9月23日に光州(クァンジュ)広域市議会市民疎通室で記者懇談会を開き、同資料を公開したとのことです。資料によると、当時の三菱の系列会社には34万7974人の労働者が勤務しており、このうち朝鮮半島出身者の徴用者が1万2913人、非徴用者が171人と記載されています。
 (※写真はhttps://lavender.5ch.net/test/read.cgi/news4plus/1569241855/-100より引用しております。)

 高橋代表は「安倍内閣は徴用被害者を徴用工ではない『労働者』と表現しながら否定するが、三菱が発行した社報には『半島人徴用者』と書かれてある」とし、「強制徴用」の証拠と主張しました。

 しかし、この主張は以下の如く歴史的事実に反するものです。

1945年8月の資料で朝鮮人徴用者が1万人以上存在していても不思議なことではない
安倍内閣は全ての徴用被害者を「労働者」と表現しているのではなく、2018年10月30日の韓国大法院判決での原告4 名を自らの意志で渡日した「労働者」と指している

 既に歴史認識問題研究会でも説明してきておりますように、朝鮮人への徴用令(法的強制力あり)は1944年9月から開始されており、それ以前は「募集工」、「官斡旋」であり、朝鮮人労働者の多くは自らの意志で日本へ出稼ぎに来たのです。

 三菱の資料は1945年8月のものですので、朝鮮人徴用者が1万人以上存在していても不思議ではありません。当時の朝鮮半島は日本国でした。日本人男性に赤紙を送り、徴兵したことと同じ現象です。もし、この三菱の資料をもって朝鮮人に賠償を支払わなければならないと言うならば、当時の徴用された日本人全ての人にも賠償を支払わねばなりません。

「徴用」は確かに法的強制力を持っていましたが、「強制連行」のような法と人権を無視した非人道的行為とは異なります。この点を混同しては「徴用工問題」の本質を見失ってしまいます。

「徴用工問題」で議論されてきた点は、主に以下の2点です。

ⅰ)徴用の際に非人道的な「連行」行為が横行していたのか
ⅱ)朝鮮人労働者は賃金も貰えず、民族差別を受けながら劣悪な環境下で作業を強いられていたのか

 ⅰに関しては、今回の資料からでは判別が出来ません。
 法的手続きに則り、粛々と三菱へ派遣されたことを否定する材料は何もありません。「徴用」と記載されているだけでは、反人道的な「強制連行」を証明することは不可能でしょう。

 ⅱに関しても同様です。さらに、この点は李宇衍博士が既に指摘しているように、当時の朝鮮人労働者には適切な賃金が支払われており、民族差別は存在しなかったことを同時代の資料にて明らかにしております。

 即ち、今回の1945年8月の三菱重工業の社報をもって、「徴用工問題」における日本側の問題責任を証明することは出来ないのです。

 

※歴史認識問題研究会は2019年10月4日から10月6日にかけて、日韓国際シンポジウムを開催いたします。
 日本でも有名な李宇衍博士と金基洙弁護士をお招きし、「韓国『徴用工』問題の真実」をテーマにご講演して下さいます。
 詳細はこちらをご覧下さい→http://harc.tokyo/?p=1089

                     文責:長谷亮介(歴認研研究員)