戦時労働者問題に関する日弁連の主張に反論する

 5月1日、ついに原告側が差し押さえしていた日本企業の資産の現金化作業を開始したことにより、朝鮮人戦時労働者問題が新しい段階を迎えました。

 日本政府は外交ルートで強い抗議を行い、現金化がなされた場合には対抗措置を行うことが予想されています。

 そのような中、日弁連から日本企業による賠償支払いを求める声が出てきて、関係者のひんしゅくを買っています。

 4月20日、日本弁護士連合会が主催したシンポジウムで山本晴太弁護士(日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員)は以下のように、日本政府と企業を批判しました。
 私たち歴認研は、民間研究団体としてこの問題に早くから取り組んできました。その立場から山本弁護士の主張に反論します。

 

 まず、山本弁護士の主張を要約しておきます。

①日本側の主張「日韓請求権協定で解決済みの徴用工問題を韓国側が蒸し返した」

→同協定で「解決済」とされて放棄されたのは、国家対国家の「外交保護権」であることは、日本側も国会質疑で認めている。被害者である元徴用工の、加害者である日本企業に対する「個人の請求権」は現在も有効。

 

②日本側の主張「『個人の請求権』は消滅していないが、これで訴えても救済は拒否される」

→この主張の元となっている最高裁の判断(2007年4月27日)は根拠に乏しい。また同判決も、「個人の請求権」を完全否定したわけではなく、加害者側の「自発的対応」を促すものだった。韓国の大法院は「個人の請求権」と「裁判による権利行使」を認めている。

 

③日本側の主張「韓国側の主張は国際法上あり得ない」

→「裁判による権利行使」を認めないということの方が、むしろ国際法上あり得ない。

 

 ①に関してですが、韓国は「戦勝国」として国際社会に認識してもらえなかった点を踏まえておかなければなりません。1951年のサンフランシスコ平和条約に韓国の参加は許されなかったのです。

 戦勝国として日本からの請求を期待できなくなった韓国は、日本・韓国の二か国間の条約に請求権を求め、それが1965年の日韓基本条約に繋がっていきます。この中で日本への請求を求めたのですが、前述のように、韓国は「戦勝国」ではないので「一方的に日本から請求できる」ものではありませんでした。

 すなわち、「日本も韓国側に何らかの請求ができる権利を有している」のがこの請求権協定なのです。日本側の請求可能な項目として考えられるのは、1952年に韓国側が勝手に設定した李承晩ラインによる日本漁船拿捕に関連する賠償、戦中に日本が朝鮮半島内に残してきた資産の返還などを挙げることが出来るでしょう。

 上記の点に関して、西岡力会長は『でっちあげの徴用工問題』(2019年4月 草思社)にて、「単純に日本の統治の終了にあたって未精算だった両側の債権債務を処理することだけ」(p.48)であったと指摘します。

 日韓の国交回復にあたって、韓国側は日本へ今後の請求をしないことを約束して、必要な請求のみを提示しました。日本側も、韓国への賠償や資産返還を要求しない約束をして条約を結んだのです。これを覆すということは、日韓関係の基盤を破壊する行為と言って、差支えはないでしょう。

 ②に関しても触れてみましょう。山本弁護士は「日韓請求権協定によって放棄されたのは『外交保護権』であって、個人の請求権は消滅していません」と指摘します。「外交保護権」とは、外国によって自国民の身体・財産が侵害された場合、その侵害を自国に対する侵害として、国家が相手国の国際法上の責任を追及することであるとします。

 これに対し「個人の請求権」とは、被害者が加害者を直接、裁判等で責任追及するもの。実際、日韓請求権協定が締結された当時の政府刊行物『時の法令』別冊やその後の国会質疑(1991年8月27年柳井俊二・外務省条約局長)などでも「放棄されたのは『外交保護権』」、「『個人の請求権』は消滅していない」と説明します。

 2018年11月14日衆院外務委員会にて、河野太郎外務大臣及び、外務省の三上正裕国際法局長が同様に答弁している点にも触れています。しかし、西岡会長の分析によりますと、この「個人の請求権」とは、「該当韓国人が自分の債権を消滅させた措置について、日本の裁判で争う権利、クレームする権利までは消滅していないという解釈を」(p.54)日本政府がしているだけなのです。

 その説明が一般には分かりにくいので、共産党や日本弁護士の主張が今でも日本国内に一部流通していると述べます。日本共産党は、2018年11月1日に韓国大法院判決の見解を発表していますが、その中に、「日本の最高裁でも個人の請求権を認めた判例がある」という趣旨を載せています。

 これは、2007年の中国人元労働者が西松建設を相手に起こした裁判の判決を援用したものです。しかし、ここで注意したいのが、中国政府は日中の国交正常化の過程で中国人の請求権を放棄している点です

 韓国の場合は1965年の条約の際、日本で労働していた当時の韓国人労働者の未払い賃金なども請求していました。日本政府は当時、韓国側に韓国人労働者へ個別に金額を支払うことを提示しました。

 しかし、韓国側はその提案を退け、韓国政府が後で韓国人労働者に分配するので、一括で支払って欲しいと要求したのです。この韓国側の要望に応え、日本政府は当時の韓国の1年分の国家予算に匹敵する金額(約5億ドル)を払ったのです。現実に、韓国政府はその資金で2回も個人請求に対する補償を実施しています。

 ですので、中国人元労働者と韓国人元労働者では条件が異なっているのです。この点は『でっちあげの徴用工問題』にて西岡会長が詳細に論じております。このことから、「元徴用工」を主張する韓国人の「個人の請求権」に関しては、日本政府から韓国政府へ移行されていると考えるべきではないでしょうか。

 従って、韓国人原告団は韓国政府に補償を要求するべきなのです。

 これらの点を踏まえると、③の山本弁護士の主張も再考する必要があるのではないでしょうか。まず、日本国内における原告敗訴確定の事実を無視して、韓国裁判所のみの判決を採用し、「裁判による権利行使」を認めよという主張はあまりにも極論です。先述しましたように、日本側は1965年に一括して韓国人個別の補償金を韓国政府に渡しているのです。

 もし、韓国大法院の主張をそのまま受け入れれば、日韓関係はどうなってしまうのでしょうか。西岡会長は「韓国判決を認めれば、日本国民は今後、ほぼ永久的に(中略)賠償請求を受け続けることになる」(p.58)と危惧します。

 昨年10月の韓国大法院の判決、そして今回の韓国国内における日本製鉄と不二越の資産売却申請はまさに日韓友好の精神を真っ向から否定する事件なのです。

 日本の中には、「原告に多少の金銭を渡して和解すれば、騒ぎは収まるのではないか」と考える方もいらっしゃるでしょう。勿論、それも有効な解決策ではあるでしょう。日本人同士であれば。

 今回の資産売却を申請された不二越は、過去に元朝鮮女子勤労挺身隊員らにより日本国内で損害賠償を起こされました。最終的に不二越は、2000年に原告団との和解を選択しました。

 和解内容は、原告3名のほか米国で準備中であった別訴訟を含めた計8名と支援団体の太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会に不二越が解決金約3500万円を支払うというものでした。さらに、原告が働いていたことを記念する碑までも会社内に建立されました。

 ところが、現在では原告が23名に増え、資産の売却申請まで出されています。一度和解金を出せば、次々に訴訟を起こされるという好例ではないでしょうか。

 長くなりましたが、以上で「個人の請求権」等に関する所謂元徴用工裁判の分析を終わります。さらに詳細を知りたいという方は、西岡力会長の新刊『でっちあげの徴用工問題』を是非ご購読下さい。以下に販売ページのリンクを添えております。

西岡力『でっちあげの徴用工問題』(2019年4月 草思社) ←クリックで購入ページへ移ります

1章 「徴用工」のいない「徴用工裁判」
2章 不当判決を徹底批判する
3章 先人が作った日韓関係の枠組みを守れ
4章 日韓関係を悪化させる日本人たち
5章 日本企業を守れ
6章 韓国政府による個人補償の実態
7章 戦時労働者の実態1-統計からみた真実
8章 戦時労働者の実態2-戦時労働者の手記から見た真実
9章 「在日は強制連行の子孫」という幻想

                                         (文責:長谷亮介)
         ※表題の画像はhttp://news.livedoor.com/article/detail/16389540/より2019年5月3日に取得