2018年12月12日 講演会「朝鮮人戦時労働者の真実」

 2018年12月12日に文京区民センターにて歴史認識問題研究会主催の講演会「朝鮮人戦時労働者の真実」を開きました。多くの方のご来場、誠にありがとうございました。

 新日鉄住金に続き、三菱重工にも賠償命令が下され、日韓関係が危ぶまれております。その状況で少しでも歴史的な真実を明示し、日本がとるべき適切な対応を考える時間となりました。

 初めに本会会長である西岡力先生が、1939年の自由募集により多くの朝鮮人が日本へ渡航してきており、その中には不正に渡航してまで日本で働きたい朝鮮人の人々が存在していたことを説明いたしました。不正渡航者の多さから当時の日本政府は彼らを強制的に朝鮮半島に送還させる程であったとのことです。この視点から見ると、韓国側が主張する1939年以降に無理やり日本へ連れて来られて、労働を強いられたという「徴用工」問題には疑問を提示せざるを得ない歴史的事実があります。

 しかし、西岡先生は国連で徴用工の人々が戦時労働者ではなく、ナチスドイツが行ったような「奴隷労働」の問題にすり替わってしまうことを危惧していることを説明されました。2018年10月30日の『ニューヨークタイムズ』では原告側を「奴隷労働者」であったと説明していました。

 もし、国連で徴用工問題が「奴隷労働者」問題という名の人権問題へとすり替われば、日本側が提訴を考えている国際司法裁判所でも日本が負ける可能性があることを指摘致しました。人権問題となれば、日本政府が主張している1965年の日韓協定の違反を唱えても人権問題に時効は存在しない為、国連は日本へ被害者やその遺族との和解を勧告することも十分にあり得ます。また、請求権も遺族が引く継ぐことが可能である点にも指摘されました。

 質疑応答の中で、西岡先生は日本政府は日本人の財産を守るということに注力すべきであると述べました。一連の裁判は民事訴訟であり、日本政府は介入することが出来ません。韓国側はアメリカの新日鉄住金や三菱重工の財産を差し押さえる手段を模索しております。アメリカでの財産差し押さえになるとアメリカの裁判所が判断することになります。この場合、日本では最高裁で敗訴して韓国の最高裁では勝訴しているという相反する事例を比較してアメリカの裁判所は決定を下します。しかし、日本では裁判を起こさず韓国内だけで裁判を起こして勝訴しているケースでは韓国での勝訴のみで判断を下す危険性があり、これも予断を許しません。

 西岡先生は、日本政府は国際司法裁判所に訴えるのも良いが、最初に取るべき行動は条約解釈の違いが起こった場合に規定されている第三者機関を設置して話し合いに持ち込むことであると指摘されました。この第三者機関は両国が同意できなければ設置できないのですが、同時に、設置に関する話し合いを開始しているので、アメリカの裁判所も財産差し押さえに関する審議・決定はその話し合いが終わらない限り行われないとのことです。韓国側がこれ以上暴走しない為の行動が重要になってくるとのことなのでしょう。同様に、国連の場において日本は徴用工は「奴隷労働者」ではない歴史的事実を積極的に広報することが本問題の打開につながるとお考えのようでした。

 これに呼応するように、本会事務局長である勝岡寛次先生は詳細な資料収集による徴用工原告らの証言の矛盾を多く指摘いたしました。

                  勝岡寛次先生

 

 勝岡先生は、なんと新日鉄住金と三菱重工の原告全員の名前と法廷(日本国内)での証言内容を網羅し、ひとつひとつを検証されました。

 三菱名古屋の女子勤労挺身隊の訴訟においては、名古屋高裁は強制連行・強制労働と判断したが、当時彼女たちを引率してきた韓国人女性の証言には「日本の進んだ技術を学びに行きたかった」「自分が引率していることが誇らしかった」という内容の証言をしていることを勝岡先生は発見いたしました。裁判所は提出された資料だけに目を通さなければならないので、原告側の主張に反論できる資料が当時提出されていなかったために強制連行を認定する判決が下ったのです。

 同様に、三菱広島の元徴用工被爆者訴訟では、「給料をもらえなかった」「監視の目があり自由は存在しなかった」という証言がありますが、「給料は年齢によって異なっていた」「月2回休日があり、自由に外出した」という証言が存在することも勝岡先生は報告されました。

 課題としては、広島の件に関しては同じ時期に労働に来ていた韓国人の中でも待遇の差が存在していたという点です。

 三菱広島では、食料が乏しく質も悪い食事であったとする証言が多く残っておりますが、別の職場(広島東洋工業)ではミカンをたくさん食べられた・おいしい料理が提供されていたという相反する証言もあります。勝岡先生は、これらの待遇の違いが存在した理由を突き詰める必要があると説き、都合の良い資料があるからと言ってそれに飛びつく危険性も示唆されました。

             質疑に答える西岡先生(右)と勝岡先生(左)

 

 勝岡先生のこうした緻密な事実検証を、西岡先生は国連での広報に必要不可欠な学術作業であると指摘致しました。私たち歴史認識問題研究会は、このような学術的な研究と日本が今後とるべき最適の行動を考察し、今回の徴用工問題だけではなく、慰安婦問題、南京事件に関しましても、問題解決のための行動を精力的に行ってまいります。

 その中で、皆様のご支援を賜ることが出来ればこれ以上力心強いものはございません。何卒、歴史認識問題研究会を宜しくお願い申し上げます。

                            (文責:歴史認識問題研究会事務局次長 長谷亮介)